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まだまだ森を歩くぞ!!救急・集中治療医のブログ

今いる場に楽しむ

遅ればせながら読んだ原作「七つの会議(池井戸潤)」が何とも妙な心の不安定をもたらした。ストーリーを整理すれば、心の中でしっかりと落ち着いてくれるのだが、読み進めている間は、目の前の自分のさまざまな屈託にちくりちくりととげがささるような気分だった。

特段現在の医療者および教育、研究職の立場で、社会に多大な害を及ぼすような、自己の保身や儲けのようなものを追求しているようなことは正直皆無なわけで、そもそも、医師という仕事は、社会全体とはそれほどつながっていないということが改めて認識できる。いち患者さんという個人とは密につながっていて、その個と周辺に及ぼす影響は強烈なのだが、社会生活とか、公共のことにまで影響を与えるような行為、行動はほとんどない。

何一つないかどうかは、熟考すべきだし、ないなら作っていくべきだし、いろいろ批判も受けようが、実感覚としては、それほどなさそうだ。

過去に行政機関で働いていた時のことが思い出される。さまざまな調整、配慮、人間関係、組織、どれもが新鮮だった。企業内部で働いたことはないが、組織の中で短期間勤務させていただいたことは、医師という組織内での働き方、意思決定方法と全く異なっていた。上意下達の方式とそれに対する対応プロセスも、企業のそれと医師間のそれは、異なる。

理由は、資格保持者であることが大きそうだ。自分の納得いかないことがあれば、資格を使って再就職すればよいのだ。

また、医師としてのキャリアを、入社前に判断する方法は限られている。資格だけではその人の医師としての技能はわかろうはずもないというのが、医師業界の常識だが、資格を保持していることは、再就職を穏便に進めるツールとも考えられている。判断基準は、マイナス方式で、何年目になっても、専門医すらもっていない、ということはマイナス評価されるが、プラスになるわけではない。非保持は多少のマイナス要素だが、それでけで競争に負けることはない。

社会全体は、再就職は難しいと言いながら、人手不足と言っている。働き方を改善し、労働賃金についても変革が起こりつつある。時短勤務や短期の再就職に比較的門戸が広がるようで、しかし、正規雇用の促進も進められる。女性比率を増やしたり、障がいのあるひとの就労機会がまだまだ少ないという。

医師にも、部分的に働き方の改善が進んできた。しかし、先日から行われている中国新聞の女性医師特集で気づいたが、女性が働きやすいとされる診療科に女性が縛られ取り込まれて、自由ではない、ということだ。その点で、私もキャリア形成の過程が特殊で進路がやや縛られてしまっているのかもしれない。

卒後16年目となっている。大学院で神経解剖の研究歴、心臓麻酔研修歴、術後ICUでの短期間勤務歴、地域の中規模病院麻酔科医長歴、行政出向歴、そして、現在救急科のポジションをいただいているにもかかわらず、救急科専門医を持っていない。

生きやすい場を求めて、同時に今しかできない冒険を繰り返し、さまようような20代と30代は終わった。今の与えられている場で、それぞれの社会人の悩み屈託と失望と希望、そして夢と安楽を、いちにちいちにちをただ歩むことができている喜びとともに楽しむ。マイナス要素はいくつもあろう。それで当然だし、人にやさしく生きていく、それだけだなあと、広島中山間部の三次市(みよしし)の街並みと川の堤防に立って見渡した山並みが過去に研修医の時代に働いた京都北部の盆地に妙に似ていてそれを屈託の原点みたいに思い返した。

# by khosok | 2019-05-21 10:17 | Comments(0)